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第24話 その妖精姫、本当は魔王じゃないんですか?

last update Fecha de publicación: 2026-07-27 15:45:53

歩く度に揺れる長い髪は白銀にきらめき、翠緑すいりょくに輝く瞳は涼やかで、まるで森の息吹を感じさせる。

だが、美しさの中にも愛らしさもあり、まるで物語の世界から妖精が迷い出てきたのではないかと錯覚しそうだ。

(この子が侯爵令嬢ウェルシェ・グロラッハね)

オルメリアは本能的に理解した。

「ねっ、ねっ、すっごく可愛いでしょ!」

「ええ、噂通り……いえ、それ以上ね」

自分の息子の婚約者ウェルシェを我が事のようにエレオノーラが誇らしげに自慢するが、オルメリアは素直に頷いた。

(ため息が漏れ出るほどとはこのことだわ)

とても同じ人間とは思えない絶世の美少女。

いや、本当は精巧に作られた人形なのでは?

誰かが芸術的な魔導人形ゴーレムを製造したのでは?

ウェルシェの現実離れした美貌を前に、オルメリアはそんなあり得ない思考に囚われた。

「本日はお招きいただきありがとうございます」

だが、淀み無い動作でドレスの裾を摘み軽く膝を折って礼をする優雅な所作は明らかに生身のもの。

「グロラッハ侯爵家の長女ウェルシェにございます」

それは、ふわりと浮かべた笑顔を見れば疑いようがない。これほどに美しく自然な微笑を人造で作れるものではない。

続いて同道してきた人の良さそうなシキン伯爵夫人も挨拶をした。だが、これほど見事な所作を披露する少女に、果たして付添人が必要だったのかオルメリアは疑問に感じた。

「二人ともよくいらしてくれたわね」

「ふふふ、ウェルシェさんはこっちの席よ」

今回は側妃エレオノーラとの親睦と周囲への仲良しアピールが目的でもある。だからこそ本来なら夫人しか招待しない茶会にエレオノーラの息子エーリックの婚約者ウェルシェを招いたのである。

その一環でウェルシェを自分達と同席させた。

だが、グロラッハ侯爵家という高位の者ではあっても、ウェルシェはまだ一令嬢でしかない。社交界で名を知られた夫人達の中で、王妃と同席するのは少々酷ではないかとオルメリアにも危惧はあった。

「王妃殿下ならびにエレオノーラ様と陪席させていただく栄誉に預かり恐悦至極に存じます」

そんなオルメリアの心配をよそに、ウェルシェは挨拶をして臆した様子も見せずに流れるように椅子に座った。

その彼女の一挙手一投足に夫人達の注目が集まる。オルメリアもウェルシェをつぶさに観察していたが、手先の所作から全てがとても優美で見惚れてしまった。

(とてもオーウェンやエーリックと同年代とは思えないくらい自然体だわ)

礼儀作法を卒なくこなす貴族子女は少なくない。オーウェンやエーリックだって、王族として鍛えられており完璧だ。

 だが、それを目上の者が注目する中で気負った様子を微塵も見せずに披露するのは並大抵の胆力ではない。

(触れれば消えてしまいそうな弱々しい令嬢と聞いていたけれど)

オルメリアは何となく違和感を覚えた。

確かにとても儚げな少女だ。少し頼りなさげで、だからそれが逆に庇護欲を駆り立てる。

だが、来場した時の圧倒的な存在感と言い、王妃である自分にも動じる事のない豪胆さと言い、受ける印象がどうにもちぐはぐだ。

(どうやら外見に惑わされたら痛い目を見そうね)

オルメリアの本能がウェルシェを警戒すべき人物と告げている。

王妃として君臨してきたオルメリアには、ウェルシェが獰猛な肉食獣のような、気を許せばあっという間にとって食われる恐ろしい化け物に見えた。

「ふふ、とても可愛らしいお嬢様ね」

「学園では色んな殿方に言い寄られているそうよ」

オルメリアの耳に棘を含む会話が入ってきた。

席を配置したのはオルメリアである。確認するまでもなく誰の会話かすぐに分かった。

(セギュル侯爵夫人の派閥ね)

セギュル侯爵夫人ケイト――オーウェンが自分で勝手に側近として選出した側近の1人、ケヴィン・セギュルの母である。

オルメリア個人としては好ましくない人物であったが、政治力学的均衡の為に招待したのである。だが、早くもオルメリアは後悔し始めていた。

「学園へは殿方を漁りに行かれているのかしら」

「あらあら、純情そうな顔をして随分とはしたないのね」

「もう少し慎みを持って欲しいわ」

ケイトは自分を王妃派と自認している節があり、側妃エレオノーラやエーリックに対し攻撃的なのである。

明らかに聞こえる声でウェルシェを陰湿に中傷しているのはエレオノーラへの牽制であろう。

もっとも、エレオノーラとの関係を良好に保とうと腐心しているオルメリアにとって余計なお世話なのだ。だが、ケイトはそれを理解出来ず勝手に忖度して引っ掻き回している。

「くすくす、学生生活を謳歌していらっしゃるようね」

「まあ、それではエーリック殿下も気が気ではないでしょう」

ケイト達の口撃にエレオノーラが青くなってウェルシェの顔を窺っている。ウェルシェが泣き出さないか心配になったようだ。

これくらいの嫌味は社交場では珍しくないが、通常ならデビュタント前の令嬢にはきつい洗礼である。

だが、オルメリアは見た。

ケイト達誹謗中傷の源を一瞥したウェルシェの目がほんの一瞬だけとても冷えていたのを。そして、そのすぐ後にわらったのを。

誰もがため息を漏らし見惚れるような美しく幻想的な微笑みだったが、オルメリアには壮絶な魔王の嘲笑としか思えなかった。

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